少子高齢化が社会問題となっている日本では、認知症患者数の増加による人々への負担が懸念されています。
現在、認知症は根本的に治療できない病気であるため、一度発症してしまうと、持病として進行し続けると言われています。
認知症患者の問題を改善すべく日々研究が行われ、世界中の研究者たちが認知症の解明を少しずつ進めています。
その中、2023年に公開された共同研究では、認知症の発症リスクを高める11つの要因についてレポートがさされています。
この記事では、認知症の発症リスクを高める11の要因とその背景、対策などについて解説します。
過去の研究で発表された認知症のリスク要因
認知症を発症するリスクを予測するためのモデルは多数存在しますが、多くに重大な欠点があるとされています。
例えば、2019年の研究で61つの認知症リスク要因が特定したところ、そのうち外部のサンプルでも有効とされたのは8つとされています。
さらに、外部で検証されたサンプルは、性能が不十分で一貫性が乏しいと認識されています。
今回紹介する2023年のリスク要因モデルは、大規模なデータを基に開発され、多くの外部研究でもその有効性が確認されているようです。
参考:Development and validation of a dementia risk score in the UK Biobank and Whitehall II cohorts
【2023年】認知症のリスク要因を特定した最新研究
この研究は、UKバイオバンクというイギリスの大規模な研究データを利用しています。
研究者たちはUKバイオバンクで集められた平均60歳の22万762人を14年間追跡しました。
追跡中には、28のリスク要因リストを作成し、その内認知症発症と強い関連性がみられた11のリスク要因を特定したとされています。
この11のリスク要因が、認知症を発症した患者の80%に見られたと示唆されています。これらのリスク要因は、UKBDRS(UK Biobank Risk Score)と呼ばれています。
UKBDRSの信頼性をより高めるために研究者たちは、まずUKバイオバンクデータの残りの20%と並べて関連性を評価しました。
その結果、UKBDRSが80%の人々の認知症発症を予測したとされています。
次に、研究者たちはホワイトホールII研究という外部データでリスク要因の関連性を検証しました。
ホワイトホールII研究のデータは、平均年齢57歳の2,934人の英国の公務員が含まれており、17年間健康状態が追跡されています。
結果的に、認知症のケースの77%を正確に予測したと示唆されています。
さらに、UKBDRSは、外部で検証された他の3つの広く使用されている認知症のリスク要因リスト(DRS, ANUADRI, CAIDE)を上回る正確性があると注目されているようです。
参考:Whitehall II
研究の注意点
この研究は、大規模な研究データを利用し、慎重な段階を踏んでいる一方、いくつかの注意点があると指摘されています。
一部の専門家は、患者の認知症診断では最も精度が高いゴールドスタンダードの臨床手順や評価が利用されていないため、研究結果が不完全だといわれています。
また、UKバイオバンクとホワイトホールIIの研究データの記録や自己報告の結果指標に大きな違いがあることも指摘されているようです。
専門家は、この研究にはいくつか欠点があるものの、認知症の正確な原因はまだ不明であるため、実際に認知症リスクを追跡する際に必要な指標を見ているのか分からないとされています。
認知症のリスクを高める11の要因【UKBDRS】
以下がUKBDRSによる認知症の発症リスクを高める11の要因です。
1.高年齢
高年齢は認知症発症の要因として一番最初に上げられる要因です。
年齢が高くなるほど、認知機能が低下し、結果的に認知症を発症する可能性が高くなると言われています。
厚生労働省によると、2025年には高齢者の約20%が認知症患者になると推測されています。
2.低い学歴
アメリカ国立医学図書館によると、学歴が低い人は認知症を発症する可能性が高いと示唆されている研究報告がいくつかあるとされています。
一方、学歴と認知症の関連性が見られなかった研究もあるようです。
参考:The Relationship between Education and Dementia An Updated Systematic Review
3.親の認知症病歴
遺伝子や家族の生活習慣の影響を受けやすいため、親が認知症であった場合、そのリスクが子供にも受け継ぐ可能性があると考えられています。
アメリカのアルツハイマー協会によるとアルツハイマー型認知症患者の40~65%がAPOE-e4という遺伝子をもっているとされています。
4.貧困
貧困は健康的な食生活や十分な医療の受診を制約する可能性があります。これらの負担によって認知機能に悪影響を及ぼす要因が増加すると考えられます。
5.糖尿病
糖尿病は脳の血流を悪化させ、認知機能の低下を引き起こす可能性があります。長期的な高血糖は、脳の神経細胞に損傷を与えることが知られています。
詳しくは以下の記事をご覧ください。
6.脳卒中
脳卒中は脳の一部に酸素や栄養が供給されなくなることで、その部位の細胞が死んでしまう状態です。
脳卒中による脳のダメージによって、認知機能の低下を引き起こす可能性が高いと報告されています。
7.うつ病
うつ病と認知症は、脳の構造や機能に共通の変化が見られることが知られており、両者の関連性が研究で示されています。
詳しくは以下の記事をご覧ください。
8.高血圧
高血圧は、血液が血管の壁にかける圧力が通常よりも高い状態を指し、長期的に脳の血管にダメージを与えるとされています。
ジョンホプキンズ大学によると、高血圧は認知症のリスクを上げる可能性が高く、多くの認知症患者にみられると言われています。
参考:Blood Pressure and Alzheimer’s Risk
9.高コレステロール血症
高いコレステロールは、動脈硬化を引き起こし、脳への血流を低下させることで、認知症のリスクを増加させる可能性があります。
10.一人暮らし(または社会的孤立)
社会的な繋がりやコミュニケーションが少ない環境は、脳の活性化の機会が減少し、認知機能の低下のリスクを増加させる可能性があります。
11.男性
一般的には、男性より女性のほうが認知症を発症する人が多いイメージがあると思います。
女性の寿命が長いため、認知症の有病率は女性の方が高くなりやすいと考えられています。
一方、男性によくみられる生活習慣は女性より認知症リスクを高める可能性があると報告されています。
例えば、喫煙、過度なアルコールの摂取、特定の職業による環境毒素への曝露などの生活習慣が男性のほうが一般的に当てはまるとされています。
また、男性は女性よりも心血管リスクが高く、医療の援助を求めることが少ないため、男性の認知症リスクが増加する可能性があると考えられています。
参考:
Do men consult less than women? An analysis of routinely collected UK general practice data
認知症の発症リスクを下げるために取るべき対策
認知症の発症リスクを下げる方法は以下のようにさまざまあります。
これらの方法を同時に取り入れることで認知症の発症を効果的に予防することが期待できると考えられています。
適度に運動する
運動は脳への血流を良くし、神経細胞の働きを活性化するため、認知症の対策として取り入れるといいでしょう。
特に有酸素運動(ウォーキング、ジョギング、水泳など)は脳の健康に良い影響を与え、認知機能を保つのに役立ちます。
他に、筋トレやスポーツなどの運動も効果的です。
健康的な食事習慣をつける
バランスがよく健康的な食事習慣は、認知機能の低下を遅らせ認知症の発症リスクを軽減する効果があるとされています。
野菜や果物、ナッツなどを多く取り入れ、過度な糖質や赤身肉などの摂取を控えることが一般的だといわれています。
人と交流する
人とのコミュニケーションは、脳の活性化に役立ち、社会的なつながりを保つことができます。
周囲の人や友人、家族などと会話をしたり、外出するなどの交流活動を定期的にすることが推奨されています。
ストレスを管理する
過度なストレスは、認知機能に悪影響を及ぼすことが様々な研究で報告されています。
リラックスする時間を作ったり、瞑想や深呼吸などのリラクゼーション方法を取り入れることで、ストレスを軽減できるとされています。
飲酒・煙草を控える
過度な飲酒や煙草は、脳の健康を損なうリスクがあります。適度な飲酒や禁煙を心がけることで、認知症のリスクを低減することができるといわれています。
脳を活性化する
読書、パズル、料理など、脳を刺激する活動は認知機能を維持するのに有効だとされています。興味がある活動や趣味など、自分に合う方法で脳の能力を鍛えましょう。
定期的に認知機能をチェックする
認知症は、早期に発見して適切な介入・治療を施すことで、その進行を遅らせられる可能性のある病気とされています。
そして、早期発見には定期的に自身の認知機能の状態変化を把握することが重要になります。
認知機能検査を実施しているお近くの医療機関は、こちらからお探しください。
MCI段階で発見すれば進行を抑制できる
認知症の一歩前の段階にMCI(軽度認知障害)という状態があります。
物忘れなど認知症に見られる症状が出ているものの、その程度は軽く周囲に影響を及ぼすほどではない状態です。
しかし、軽度とはいえMCIを放置すると、その中の約1割の方は1年以内に認知症を発症すると言われています。
一方で、もしMCI段階で適切な治療を施すことができれば、健常な認知機能まで回復する可能性が14〜44%もあるとされています。
つまり、認知症を深刻化させないためには、少しの認知機能の変化に気づき、適切に対応することが有用であると考えられます。